[ ふらくたる -FRACTAL- ExtraEssence! ] - [~0121]
晴暦3099年、樹の星ウララの春の空
晴暦3099年4月。

グリューロット姐さまが言った。

「蒼の婆さまに会ったら伝えておいて。今度ぶっとばす、と」、だれ?蒼の婆さま?

ルイボス姐さまは言った。

「イチゴ叔母さまに会ったら伝えておいて。はよ帰れ、と」、え?母さま?

妖精アーマルタは言った。

「<じ・えんど>が、また来るぞ。」、なに?じ・えんど?

・・・。

んんむ。

母さま以外が何のことか、わからなかった。

そういえば、何年帰ってこないんだ・・・あの母さまは。

・・・。

アタシは、ビアンとグリングリンと一緒に、焼きたて焼きプリンを食していた。

タオ大叔母さま謹製の焼きたて焼きプリン。

・・・。

わからないことが多いと、頭が追いつかないー。アタシは、スプーンでプリンをすくいながら言った。

「ウララはすぐ深く考える。深く深く考え過ぎる。」、グリグリが淡々と言った。

「ウララは~、考え込む癖が~、・・・、そして寝る~。」、ビアンがふわっと言ったような気がした。

だってさー、母さまはわかるよー、奔放すぎることはー。

でもね、でもね、あとの2つがよくわからないんよー。

アタシはスプーンを握って、テーブルに頭を伏していた。

お茶持ってきてくれたタオ大叔母さまが、なんとなく微笑んだように見えた。

・・・。

「ウララちゃんは<あの子達>に似ている部分あるかなー。考え込む部分はオーレそっくり。」

オーレ?だれそれ?

タオ大叔母さまは言った。

「んーーー。ウララちゃんは知らないことは、自分の目で耳で確かめなさい。」

「それは、きっと、良いこと悪いことを知る大切な道だから。」

「さ、プリン食べたら、いってらっしゃい。」

・・・。

今日は、晴暦3999年の春。

桜の花びらの舞う春。
晴暦3099年、道鍵防守のハオ
晴暦3099年4月。

鴎威の指がハオの甲にめり込み、パキパキと音が鳴った。

「終末の狐よ、<道の鍵>を譲っていただけませんか?」

「寝言は寝てから言いなさいな。」

ハオは手の甲をつぶされながら、鴎威に煽り返し、

羽織を変形させ、意思のある刃の如く鴎威に襲い掛かった。

「ミミックか!」

余裕を見せていた鴎威はさすがに危険を察知し、ハオから離れた。

「蒼の狐をなめんなよ。」

羽織ミミックはハオの三本の尾としてうごめかせ、

折れた手の甲は何事も無かった様に治しハオ独特の構えを作った。

<あ~らあらしいっ♪あっさがっ、きたっ♪>

ハオの顔の横に何かが浮いていた。

<8時っ!8時っ!>

ハオの妖精「目覚めの朝」が知らせで出てきた。

「おっと、ごめんよ。開店の時間だ。」

ハオは右手を握り挙げ、ぐるぐると振った。

「は?何を言って」

鴎威の意を無視するかのように、どこからとなく銃弾が降ってきた。

初めの数発は手で弾き返していたが面倒になり、

人造竜を引き連れながら海上を南へ走り逃げた。

「また来させてもらいます。」

「遠慮するわ。」

ハオは鴎威を見届け、挙げた右手を平手にし、攻撃を止めた。

海から上がるフロリアを余所目に、西の空を見上げた。

「また面倒な年になりますか。姉さん、オーレ、どうするんだ?」
晴暦3099年、箱庭簒奪の鴎威
晴暦3099年4月。

「ばっちゃん、そっちゃは任せたわー」

太楽海花フロリアは、緋の国の人造竜を破壊し、祖母のハオに「グッ」と握りこぶしを見せた。

「なん・・だと!?」

緋の国の鴎威は動揺を見せた・・・様に見せかけ、

「なんてな。」

フロリアの横っ腹を何かが打ちつけ、海の上を転がりながら港に落ちた。

「あの馬鹿。」

ハオは髪をかきながら、心配どころか侮蔑の言葉を吐き出した。

<ユーン・・・ウーン・・・>

破壊された人造竜は、尾部を振り回しフロリアを弾き、

機械音を鳴らしながら自身を結合・再構築していた。

「いっつも、油断大敵っつってるのに。」

海に落ちた孫を尻目に、鴎威に目をやった。

「当社の特品を侮ってもらっては困ります。」

鴎威は自慢げにつぶやきながらハオの制空圏に入ってきた。

二振りの刀に手をかけるかのような動きをしたと思ったら、

ハオに組み手を仕掛けてきた。

「っ」

ハオはついつい両の手を掴んでしまい、痛みが走った。

鴎威の指がハオの甲にめり込み、パキパキと音が鳴った。

「終末の狐よ、<道の鍵>を譲っていただけませんか?」

「寝言は寝てから言いなさいな。」

ハオは手の甲をつぶされながら、鴎威に煽り返していた。
晴暦3099年、フロリアの風の128
晴暦3099年4月。

フロリアは干し焼きイワシを咥えながらその人造竜相手に体術による格闘を再開した。

「お前の相手は、ここにいるぞ!」

悪魔128の圧縮風術にて光弾の軌道を屈折させ、

竜の6本脚を蹴り崩し、よろめいた所に頭部らしき部分を殴り突き上げた。

このような反撃に対してもまた鴎威の予定外だった。

・・・。

フロリアは干し焼きイワシの尾まで食べ納め、指をペロりと舐めた。

「こんなもんじゃないだろ?んん?」

自分の身長の5倍はある人造竜を踵落としで地に叩きつけた。

さらに踏み蹴り、転がり伏せたところを爪先で持ち上げた。

「起きろよ、なあ、なんともなんだろ?」

・・・。

人造竜は何事も無かった様に、すっくと立ち上がり、胴体中心にある赤い袋を激しく発光させ、

フロリアの眼前で光弾が止め処なく乱れ飛ばした。

乱れ飛んだ光が地に当たり、石のタイルが破裂し激しく砂埃が舞い上がった。

・・・。

港を包み込んだ砂埃の中から、竜の切っ先を掴む手があった。

「それで終わりか?」

「バギギッ!」、竜の切っ先は握り潰された。

一抹の風が吹いた中、フロリアの<異形>がいた。

「きっとルララは腹抱えて笑って怒っているだろうな?」

<フロリア、ねえ、どうする?>

「<いちにっぱ>、やっちゃっていいわ」

異形「風の悪魔128」は、握り潰した所から圧縮した風を竜の体内に送り続けた。

・・・。

竜の胴は歪に膨れ上がり、「パンッ!」と音が響くと共に、脚を残して、四方に弾け飛んだ。

・・・。

「ばっちゃん、そっちゃは任せたわー」

悪魔128はフロリアの脚を引っかき強請った。

<なあ、干し焼きイワシ、くれよ~>
晴暦3099年、霞桜糸の糸斬り鋏
晴暦3099年4月。

「太楽のフロリア」を海花港大通りに弾き飛ばした<それ>は、

海花の丘にある世界樹「サン」の神社「東海原」に向かって光弾を放ち続けていた。

神社側の「太楽のルララ」からも<それ>に向かって狙撃が繰り返されていた。

狙撃に伴う衝撃によって<それ>の不可視迷彩装に支障をきたし、

人造の竜、エンジニアリング・ドラゴンの姿があらわになっていた。

竜と呼ぶには異質、いや、既存の生態系に当てはまらない姿。

人造の竜は東邦の島国「緋の国」で作られている噂は過去にもあった。

それが民間のフェリーに載せられて、この港に現れるとは誰も想像できなかった。

・・・。

緋の国の魔女「音立花の鴎威」は何かの企てにて運んだのであろうが、

それに対抗できる連中がいることは予定外だった。

・・・。

フロリアは干し焼きイワシを咥えながらその人造竜相手に体術による格闘を再開した。

「お前の相手は、ここにいるぞ!」

悪魔128の圧縮風術にて光弾の軌道を屈折させ、

竜の6本脚を蹴り崩し、よろめいた所に頭部らしき部分を殴り突き上げた。

このような反撃に対してもまた鴎威の予定外だった。

・・・。

「驚いた♪これは、驚いた♪ここまで良い様にやられるとはな♪」

そのような状況でありながら緋の国の魔女「音立花の鴎威」は歓喜の笑みを浮かべていた。

「魔王の眷属やワルキューレなど、こうも多く巡り合えるとは♪これもまた運命♪」

「<やつ>もこんな楽しい世界に来ていたのか、なあ、<幻燈サクラ>♪」
晴暦3099年、晴れ時々ハレル
晴暦3099年4月。

それは、干し焼きイワシを咥えながら、市場への買出しから帰るところであった。

それは、海花市場からの大通りの交差点に入るところであった。

交差点からは、港が見え、いつもの海花の海が見えるはずであった。

それは、いつもの港ではなかった。

それは、港の船着場に接岸しているフェリーが燃え、ざわつく野次馬どもが溢れ返っていた。

いや、野次馬どもがざわつき騒ぎ、こっちに逃げてきた。

「なんじゃとて!?」

慌てて、あたしは<でぃふぇんさー>を広げたそのとき、何かが真横をすっ飛んでいった。

振り返って見たそれは、なんとか大通りの地面を削り止った<太楽堂のフロリア>だった。

・・・。

「なにやっとんねん!?フロリャア!?」

「向こう見ろ!向こう!」

「あ、太楽のばっちゃ。」

「そっちじゃない、あっち!あっち!」

「ん?んんんんんんんんん?」

それは、なんかぼんやり見えた。わからん。

「なんじゃあれ?」

それは、砂埃を立てながら、あたしの方に向かってきた。

それは、もう、それはすごい勢いで。

・・・。

フロリアは、あたしが咥えていた干し焼きイワシを咥え、それに向かって突撃を仕掛けた。

「ぁ。あたしの!干し焼きイワシぃいいいいいいいいっ!!」

買出し帰りの大衆食堂「猫福亭」の<猫福の海花ハレル>の悲痛な叫びだけが轟いた。
晴暦3099年、星眺星掴のスタン
晴暦3099年4月。

ある夜、手にした「何かの欠片」。

あれから何日経ったかな?

いつもの天体観測を終え、

日の出の重なりに<あるもの>が薄っすらと見えた。

あれって、なんだろう?初めて見た。

真っ白な大きな風船のように見えたけど、すぐに消えてしまった。

あとで誰に聞いても「知らない、わからない、という夢だった?」とかそんな答えばっかり。

本殿の婆ちゃんは思い当たる節はあるようだけど、

「うーん、なんだったけねー・・・」と目を瞑って考え込んでしまった。

・・・。

その数日後、本家に出向してきた<海花の花見のサンゴ>おばさんが、それとなく言った。

「あーあれだ、あれあれ。あれ?」

・・・、そっと耳打ちしてきた。

(リンゴ姉さんか、龍話師・・・サクラさんを探しな。)

(スターゲイザーの欠片を持つ父さんや母さんの居場所がわかれば、まだ・・・。)

???

(龍話師・・・。)

(龍の本音を伝える者・・・。)

(もしかしたら、シーバウスの婆ちゃんなら知ってる・・・?)

・・・。

太楽の星見夜のスタン・スターンは、シーバウス連邦へ向かう準備を始めた。

<樹海雲の竜宮楼>まで辿り着いた<フラン・シー・ド>婆ちゃんなら何かを。
晴暦3099年、流星光底のキサラ
晴暦3099年4月。

朝の初め、<それ>が来た。

数え切れない船舶の残骸を結ぶ廃材で作られた橋の上で。

引き離しても追いつく<それ>は、目で捉えることが出来ない。

不可視?

存在する幻覚?

ただ、確実に、手の届くところまで擦り寄ってきている。

・・・。

張りぼての対岸まであと少し・・・。

手枷、足枷からあと少しで、遠くに・・・。

・・・。

そうだ。

ずっとそばに、<それ>はいた。

昔からずっとそばに。

・・・。

「今度こそ、私は。」

「今度こそ、私はあの場所に。」

「今度こそ、私はあの場所に、<星空の涙>を。」

・・・。

「星空のキサラ」の疾駆は、陽の光を透き通る流星の如く。
晴暦3099年、弓取戦舟ぱらぺーにょ
晴暦3099年4月9日。

ここは北リアニン大陸、中東自治国家「ロータス」、大陸間鉄道オアシス「ダイトライン中央駅」。

・・・。

電気鉄道が通じているこの時代、地域格差により電力供給されていない区画があるため、

旅客車両には、電力式と燃料式の混合動力を持つ車両は、極当たり前に存在していた。

・・・。

プラットホームの無い駅に車両到着のベルが鳴り響いた。

旅客車両と言っても貨物車両も多く線路内には積み下ろしの為のクレーンや貨物トラックが行き来していた。

・・・。

十五連盟「フィフティーナ」交渉総務課所属、「光羊蒼華のメリィ」が、所属不明の人工竜「エンジニアリング・ドラゴン」と相対していた。

人造竜とは言うが、爬虫類の様でもない硬質な何か、そう、「ゴーレム」に近い容姿をしていた。

・・・。

緊急のサイレンと共に、

<現在、車両外通行道にお降りにならないようご協力の程、お願い致します。>

あまりないアナウンスだ。

車両内では降車を待つ乗客がざわつき、通行道に面するガラス窓に寄っていた。

・・・。

人工竜の起動が完了し、その姿が明確になった。

四肢はある。

尾らしきものもある。

ただ、頭部らしき部分が単純な様で意図のわかりにくい形状であり、口吻がない。

・・・。

「フェイズシフト・アクター型か」。

メリィは、人工竜という名称を知っていてもそのものを見るのは初めてであった。

両足のふくらはぎに力が篭り、爪先を地に押し付けるようにし、二振りの刀を構えた。

・・・。

メリィが突出するその時、手をポンポンと打ちながら、列車より降りてくる者がいた。

「はい。メリィちゃん、なんでも力任せにするのではありません♪」。

・・・。

「あなたは賢いんだから、もうちょびっと、やりようを考えましょう♪」。

気の抜ける話し方だが、なんか違和感のある雰囲気が広がった。

その者の両脇には二人ずつ十五連盟の護衛らしき者が立ち、陣形を作った。

・・・。

「ぱらぺーにょ殿!ここで、手をこまねいていても進展しません!」。

メリィは振り返らずに「ぱらぺーにょ」と呼ぶ者に進言した。

「はいはい。駄々こねない♪」。

「ぱらぺーにょ」は、ずかずかとメリィの前に布陣した。

・・・。

人工竜の内部から何かが回るような音が響き始めた。

・・・。

「こういうものは、わたしの得意分野です♪」。

「なにせ、わたしは、武勇伝の持ち主です♪」。

「素手で戦闘艦を倒したという武勇伝を・・・」、

・・・。

「他人のですが♪」。

・・・。

「ぱらぺーにょ」は手をひらひらと仰ぎ始めた。

何もない宙に幾何学的な何かが出現し始めた。

「戦の箱舟の、この、ぱらぺーにょが何とかしましょう♪」。

・・・。

十五連盟「フィフティーナ」に付随するよくわからない存在、「箱舟クラウソラス」の同心「ぱらぺーにょ」が笑みを浮かべ、歩みだした。

晴暦3099年の春。

「憂鬱」との別れの始まりであった。
晴暦3099年、十五連盟のメリィ
晴暦3099年4月9日。

ここは北リアニン大陸、中東自治国家「ロータス」、大陸間鉄道オアシス「ダイトライン中央駅」。

・・・。

電気鉄道が通じているこの時代、地域格差により電力供給されていない区画があるため、

旅客車両には、電力式と燃料式の混合動力を持つ車両は、極当たり前に存在していた。

・・・。

プラットホームの無い駅に車両到着のベルが鳴り響いた。

旅客車両と言っても貨物車両も多く線路内には積み下ろしの為のクレーンや貨物トラックが行き来していた。

・・・。

<ダイトライン駅。ダイトライン駅。>

<お荷物のお忘れなき用、お降りください。>

よくあるアナウンスだ。

・・・。

なぜ、私が「こんな所」まで使い走りにされなければいけなかったのか?

・・・。

一時期、世界各国にて王国主義から民主主義に伴う軍縮化が行なわれたが、

数十年前の「出来事」で、うやむやになった。

政府間首脳はもめ、一時緊急事態になりうることもあった。

そんなこともあって、非武装化へ傾向も中途半端に見直されたかのようであって、

ほんのわずかだが、「護身用名目の武装所持」も制限有りでの容認されていた。

・・・。

十五連盟理事院の「一代表の頼み」でここまで来たわけだが、

一時期、席巻していたコングロマリット・カンパニー「大全太楽堂」に向かうことになった。

・・・。

ここには初めて来る事ではなかったが、陸続きの国柄であっても、馴染めないものは馴染めない。

一週間の乗車期間で体の節々が痛む。

出迎えはいない。

・・・。

いや、眼前に貨物用の大型トラックが止まった。かなり大きい車両だ。

木製の合板で出来たコンテナには、使い古していない新しい印字の業者名が塗られていた。

まあ、こういう時はまともなことが起きないことは察しがついた。

・・・。

トラックのエンジンはかかったままだったが、コンテナの中で擦れる音とトラック自体が左右に揺れた。

木製の合板は勢いよく弾け飛んだ。

嫌な予感は的中する。

中から見るからに硬質の物体が畳まれた部位を動かし、歩く素振りを見せた。

・・・。

それは人工の竜、「エンジニアリング・ドラゴン」。

・・・。

駅舎のスピーカーから広い線路敷地に対し、警報音と共に退避の声が響き渡った。

・・・。

やれやれ。

いつも面倒な事に巻き込まれる。

プレートアーマのついた片刃の長剣と近接用短剣を引き抜き、独特の構えを取った。

・・・。

十五連盟「フィフティーナ」交渉総務課所属、「光羊蒼華のメリィ」。

晴暦3099年の春。

理事院「海花の太楽のバレリィ」の命を伝える為、脅威を排除する。
晴暦3099年、蒼天祝樹のオーレ
晴暦3099年4月9日。

オーレです。

・・・。

「バベル」を通じ、辿り告いだ樹海雲「ふらくたる」の第7階層。

アタシは、瞼を閉じ、ぼそぼそと「実行式」を詠んだ。

・・・。

コール、「ヌル・ポイント」・・・。

コール、「ハロー・ワールド」・・・。

・・・。

いた。

ハローのにおい。

あれ?

リンゴのにおい?

なんで、あの子まで?

・・・。

?:「とおさん、ばれてるよ!!」

?:「しっ!気配を消して!!何されるかわからない・・・。」

・・・。

ハロー、リンゴ・・・。

ほかに・・・、

「虚無」?

「バベル」?

まさか・・・ね。

・・・。

今行くぞ!!

10年も家出しやがって!!

・・・。

私は、オーレ。花見の太楽のオーレ。

晴暦3099年の春。

齢100歳越えた「春」、「空」に道を築く「春」。
晴暦3099年、星見夜のスタン
晴暦3099年4月。

あるとき、婆ちゃんは言った。

・・・。

いつもは「わし」と言ってる婆ちゃんが、「私」と言った。

この地は、「呪われた地」。そして、「祝われた地」。

この地は、かつて・・・(セリア村)のあった地。

この地は、かつて・・・(セリア戦争)が起こった地。

この地から「私」は出ることは出来ない。そう呪われているから。

それでも、人がまばらだったあの頃から、大きな街に育った。

私は、数え切れない者たちと出会い、別れていった。

そして、そろそろ「痺れ」が切れてきた。

お前は、「見ろ」。

この「世界」を。

この「世界の未来」を。

お前は、「築け」。

この「世界」を。

この「世界の未来」を。

・・・。

そして、ある夜、私は出会った。

その者は、「偶然」であり、「必然」の「出会い」と。

その者は、夜空に向けて、指差した。

その者は、「目を開け、自分の未来を。世界の未来を。」と。

その者は、私に「何かの欠片」を手渡した。

私は、「何かの欠片」を見て、その者に視線を向けたが、そこには誰もいなかった。

・・・。

その朝には、婆ちゃんから「星見夜の称」を言い渡された。

・・・。

私は、スタン・スターン。太楽の星見夜のスタン・スターン。

晴暦3099年の春。

「空」に憧れ、想いを馳せる、スタン・スターン・シード。
晴暦3099年、楽々雷来ウララ、駆ける
晴暦3099年4月。

アタシはウララ。

太楽の海花のウララ。

・・・。

今、スーリア国の西の国境のある町「サワ野」にいる。

昨日は、あわただしい世界だった。

あわただしい状態を作った人たちは、いつの間にか、どっかに行った。

取り残されたサン海花の娘三人。

「何がなんだったんだ?」

・・・。

ふむぅ・・・。

悩むに悩んだ。

ばっちゃんは、「気にすんな♪」と言った。

夜空には、撒かれた光の粒が河のように広がっていた。

「あの時」と同じような悠久の星空・・・。

・・・。

夜空の蒼さを、ぼんやり眺めていた。

そして、空は少しずつ白みがかってきた、朝の日の光の線条が差した。

何があるのか?何を知れるのか?

さあ、行こう♪

さあ、進もう♪

日の輝きを瞳に映し。

・・・。

今日は、晴暦3099年の春。

桜の花びらの踊る春。
晴暦3099年、蜂羽響叫のイエロージャケット
晴暦3099年5月。

・・・。

「何故、今頃現れた?」

「何故、ここにいる?」

「お前は、「月のリング」に居た。」

「でも、ここに居る。」

「ここに来る必要も無い。」

「何を求めている?」

・・・。

<んふふっ♪>

<想像してごらん♪>

<ねえ、ミッドナイト♪>

<ぼくの存在理由・・・憶えてる?>

<そう♪ぼくは、数え切れない古の刻からの調査部隊員♪>

・・・。

<UNF「ギャラックス」第24師団>

<第246旅団直下所属独立調査部別室「VESPA」>

<コード「イエロージャケット・トゥー・トゥー」>

<最後の「イエロージャケット」♪>

・・・。

<待たせたな♪>

<グリモワール「ヤンヤディラ」の抹消を開始する♪ うん、そうする♪>
晴暦3099年、深遠蒼呼のミッドナイトブルー
晴暦3099年5月。

・・・。

「何故、今頃現れた?」

「何故、ここにいる?」

「お前は、「月のリング」に居た。」

「でも、ここに居る。」

「ここに来る必要も無い。」

「何を求めている?」

・・・。

<ん~♪>

<そうだね♪>

<そろそろ、頃合いかな?と♪>

<ねえ♪>

<あんたも、何故、ここの居るん♪>

<「ここ」に降りて、上がって来れなくなった「あんた」が♪>

・・・。

「「ヴィクトリー・サイン」・・・?」

「「ピース・メイカー」なのか?」

「応えろ。」

「応えろ。「イエロージャケット」。」

・・・。

<んふふっ♪>

<想像してごらん♪>

<ねえ、ミッドナイト♪>
晴暦3099年、黒無黒有の黒の王
晴暦3099年4月。

・・・。

<・・・黒。>

<・・・染まらない黒。>

<・・・染められない黒。>

<・・・「光」あっての「影」とも違う。>

<・・・「概念」としての黒。>

<・・・「思想」としての黒。>

<・・・「有」としての黒。>

<・・・「無」としての黒。>

<・・・「濁った夏」が終る。>

<・・・。>

<・・・「濁った夏」が終わった先には、何がある?>

<・・・。>

<・・・それは、なにものであってもわからない。>

・・・。

光とも闇とも区別つかない世界で「それ」は語った。

<・・・。>

<・・・有象無象の魔王たちの、争いは終り、>

<・・・有象無象の魔王たちの、まだ見ぬ未来が始まる。>
晴暦3099年、意思相応界隈の龍王リュウン
アイツは、遠い昔、言ったよ。

「人は分かり合えることが困難な存在だ」と。

「分かり合えることが出来ないから、異なる者」と。

「じゃあ、分かり合えるとしたら?」、

「そこで始めて、人となる」と。

「だけど」、

「人は、密になることは無い」、

「だから」、

「人は、人間という間を持つ」と。

「そして、言ったよ」。

「それでも」、

「異なる者と思い込むから、亜の心を持つ悪と言う存在と見下す間抜けだ」と。

「同属種でそれだから、私はこの世界が嫌いだ」と。

「それは」、

「私が生きるそれ以前から、考え想われている事じゃないのかな?」と。

「そして」、

「私は巡り歩んだ」と。

そして、

「お前達」が、今、ここに、いる。

アイツは、今も、「空を見ている」んじゃないか?

「何かを掴み取る」、そうありたいと。

・・・。

ここ、オールドリアニン大陸の南の岬で、私達に龍王リュウンはそう言った。

天篇より「スパイラス・スリープ」の堕ちる刻まで、残りわずか・・・か。
晴暦3099年、紅凪幽玄のアリィー
空が、近いな。

手が届きそうだ。

あの「見えない壁」まで、あと少しか。

・・・。

晴暦3099年4月。

雲ひとつのない空が上にある。

ここは、スーリア国のある河に架かる石積みの橋の上。

・・・

この星は、何処の星の河の、何処にあるのだろう。

・・・

あの古ぼけた「歴史の図書館」にすら、それは並べられていなかった。

・・・

学ぶことは、面倒だったかもしれない。

学ぶことは、必要だったかもしれない。

それは、有用だったか。

それは、無用だったか。

無知ならば、知ることをすればいいだけ。

無知だからこそ、知ることをすればいいだけ。

・・・

もう、前に進んでもいいんじゃないかな。

もう、見上げるだけじゃなく、掴んでもいいんじゃないかな。

・・・。

さて、と。

時間が掛かったけど、

始めますか。

古からのコードネーム「ドットウィッチ」の実行を。

・・・

嵐の魔女「アリィー」、嵐の英傑の「天ノ河のアリィー」は、見上げた。

・・・

大気を押しつぶしながら、雲の環が増え広がって、近づいてきた。

「あのもの」達は、どう「想う」かね?
晴暦3099年、詩篇の魔のルーンシェル
<昔、「ヤンヤディーラ」というものがいた。>

<人の上に立たず、人の下に屈せず。>

<互いの利益・利害の合致があるならば、それもまた「手段」となろう。>

<一方的な抑圧は、鬱憤しか溜まらない。>

<それが破裂した時こそ、押さえ込むことなど出来はしなくなる。>

<それは、詩篇の魔の一つ。>

・・・。

晴暦3099年4月。

ここは、スーリア国の東端の港町「サン海花町」の港。

・・・

<やあ、古き組み合わされた楽曲の如くの旋律の魔に魅入られし者よ。>

・・・

そこに現れた「異」は、宙に浮きつつ、「太楽の海花のルララ」の両肩に優しく手を置いて、緋の国の魔女に目を向けた。

・・・

<我らは、人で無く。>

<我らは、龍で無く。>

<我らは、書であり。>

<我らは、加減可変書項に也て、能動受動の力に也て。>

<詩篇ヤンヤディーラの項に也て。>

・・・

<「僕達」も、この世界に構成された一部だよ。>

<「僕達」も、「全て」を知っているわけではない。>

<「僕達」も、聞きたいことはある。>

<「エンジェル・コースト」、何故、あれが「目視出来る」? あれは、「目視出来ないもの」。>

<「何」をした?>

<「何」をする気だ?>

・・・

「詩篇の魔」の「2の7乗」、・・・「ルーンシェル」・・・。

「これは、予想外です♪」

緋の国の魔女、音立花の鴎威の頬を冷たい汗が流れ落ちた・・・。

「これは、あまりにも分が悪すぎます♪」

「誠に申し訳ありませんが、この場は一旦、引かせていただきます♪」

緋の国の魔女は、人造竜と共に、「無かったかのように」、姿を消した。
晴暦3099年、華斬りの霞桜糸
晴暦3099年4月。

ここは、スーリア国の東端の港町「サン海花町」の港。

・・・

鴎威は、拍手していた。

「面白い!面白いなあ♪変な者も居るもんだなあ♪」

不可視だった「何か」は、フェリーから、可視状態で歪な姿を現した。

「何か」は、「竜」だった。「人造竜」。「エンジニアリング・ドラゴン」。

・・・

「うん。あー、ちょい右♪」

「ちょい右ってどれくらいよ!!」

「右に1メモリかな?」

「何とか見えるようになったけど、可視波長に歪みがあるのよ!!」

「まあ、ぱぱっと予定通り2発撃っちゃって♪」

・・・

パスッ。パスッ。

・・・

飛来するそれは、緋の国の竜に「バリリッ!!」と強烈な発光と、「グチッ!!、・・・スドーーーンッ!!」と轟音を立て2発共命中した。

「なんだ!!」

鴎威は周囲に両目を散らし、索敵した。

「何処から撃たれた!!感知できない距離?・・・あそこか!!」

「霞桜糸(かすみがろうし)、斬れ!」

・・・。

「あ、ばれた♪ もう一撃、行こうぜ♪」

「なんで、そんなに早くばれるのよ!!」

すかさず、再度2発撃って、その場を逃げた!

・・・。

巨大な世界樹「サン」の切り株の元にある神社「東海原」の鳥居を含めた周辺一帯が斬り裂かれた。

猛烈な炎、煙、砂塵・・・、海花町から微かなざわめきが聞こえた。

・・・

「逃げたか。」

「シールド、再構築完了。表皮、再構築完了。戦闘状況の再開が可能。」

「シールド・スプリッタと、オリハルコン弾頭の2セット・・・、ワルキューレでも混じっているのか、この地は。」

・・・。

「海花幽霊!! もうちょっと働きなさいよ!!」

「働いたじゃない♪ まさか、竜とは思わなかったけどねー♪」

・・・。

「さあ、どうする? 太楽の化け物よ♪」

緋の国の魔女「音立花の鴎威」と人造竜「華斬りの霞桜糸」は、燃えさかるフェリーを後ろに立ち構えていた。

・・・

「海花幽霊」と呼ばれた「砂走のレイ」と、地元の太楽の「太楽の海花のルララ」が別場所から改造狙撃銃を構えていた。
晴暦3099年、加速する風のフロリア
晴暦3099年4月。

ここは、スーリア国の東端の港町「サン海花町」の港。

・・・

ハオは鴎威の喉元を体勢を崩しながら踵で蹴飛ばし護岸のコンクリート壁に叩きつけられ、鴎威をコンクリート壁にめり込ませていた。

・・・

「なかなか、うまくいきませんこと♪ひよっこの癖に、すばらしい♪面白い♪」

鴎威は意に介さない表情で言った。

「出てきなさい♪華斬りの霞桜糸♪」

・・・

緋の国から来た接岸中のフェリーの格納層の扉がゆるりと開き、見えない重い「何か」が降りてきた。

・・・

「何か」が降りてきたことはわかったが、突風と共に「白い鳥のようなもの」が「何か」を蹴り上げた。

「何か」はフェリーの格納層の天井に打ち上がり、

フェリーそのものの前部が持ち上がり、後部が勢いよく海にめり込み、海面が沈み、そして、波が跳ね上がった。

更に見えない「何か」を蹴り込み、フェリーの奥に押し込められ、格納層の後部扉が吹き飛び、積載車両が次々と海に転げ落ちた。

フェリー内部で何が起こっているか見えないが、フェリー自体は前後左右上下と振り回されて、護岸壁が水浸しになった。

フェリーの上部休息用甲板の四隅の木箱が弾け飛び、自動稼動のロボットガンが、自滅の如く格納層に乱射を始めた。

が、四隅のロボットガンは、何故か、あっけなく爆散した。

・・・。

「白い鳥のようなもの」が、すり足でランダムに背向けの状態で出てきた。

「ばっちゃん、あいつダメだわ。」

「あらら。で、何かわかった?」

「うん、縮退炉積んでる不可視竜だったわ。」

・・・

「フロリア・・・、あんた、魔と契約してた?」

「128。」

「うーん、おかしいなあ・・・?それくらいなら、余裕でいけると思ったんだけどなあ・・・。」

「ウチもそう思ったわ。」

「ラテとアタシの血、引いていて、オマケで悪魔契約128なのにね・・・。」

フロリア、太楽の海花のフロリア。

太楽の海花のハオの孫の一人。ハオの孫であるルララ、ウララ姉妹の従姉妹。

太楽ラテの血筋の「加速」も引き継いでいる。

・・・

鴎威は、拍手していた。

「面白い!面白いなあ♪変な者も居るもんだなあ♪」

不可視だった「何か」は、フェリーから、可視状態で歪な姿を現した。
晴暦3099年、其者祭如のハオ
晴暦3099年4月。

ここは、スーリア国の東端の港町「サン海花町」の港。

潮風に色あせ錆び付いた青色のスチール製のベンチに足を伸ばして、だらんと座っていた者がいた。

その者は、地下情報では「魔王の眷属」、「魔人の果て」とも呼ばれていた。

その者は、表の情報では「強欲の守銭奴」、「永遠の21才」とも呼ばれていた。

太楽の海花のハオ。100年近く昔と姿が変わらない者。

・・・

眼前には「緋の国の魔女の鴎威」が得物に手をかけていた。

・・・

「ほう♪チリチリとした感覚があったが、鞘に収めた状態でありながら臨界状態の刀かな?」

「まあ、味わうと良いです♪その暇があるとは思えないですけどね♪」

鴎威が二振りの刀を鞘から引き抜きかけたところで、鞘自体が消えた。

・・・

鴎威は、一歩、前へ歩んだ。

・・・

「歩んだ」はずだった。

すでにハオの目先に刃先が触れかかっていた。

瞬動や縮地ではなかった。全くの「間」が無かった。

だが、ハオにはその刃先は触れる事は無かった。

「!」

「ほう♪交換相転移か♪予測・予兆の出来ぬ業♪」

「あは♪すごいですね♪無時間で避けれる、さすが魔人の果て♪」

「いやいや、褒めなさんなって♪」

「これからが本番です♪消えてください♪」

・・・

鴎威は、刀術は、予めの動作が全く無く、現れず消えずの繰り返し。

そのような状況でありながら、ハオは鴎威の喉元を体勢を崩しながら踵で蹴飛ばし護岸のコンクリート壁に叩きつけた。

いや、鴎威はコンクリート壁にめり込んでいた。

・・・

「なかなか、うまくいきませんこと♪ひよっこの癖に、すばらしい♪面白い♪」

鴎威は意に介さない表情で言った。

「出てきなさい♪華斬りの霞桜糸♪」

・・・

緋の国から来た接岸中のフェリーの格納層の扉がゆるりと開き、見えない重い「何か」が降りてきた。
晴暦3099年、緋の国の音立花の鴎威
晴暦3099年4月。

ここは、スーリア国の東端の港町「サン海花町」の港。

客船、商船、漁船と行き来が多い。

入港の汽笛の音が響いた。

それに合わし、港の鐘が鳴り響いた。だが、港には人の姿が無い。一人を除いて。

中規模の国際航行フェリーが減速しつつ、停泊した。まあ、特に珍しいことも無い。

ただ、いつまで経っても、車両甲板の扉が開かない。

桟橋に一人だけ降りてきた。

向かう先には、潮風に色あせ錆び付いた青色のスチール製のベンチに足を伸ばして、だらんと座っていた者がいた。

「ようこそ、緋の国の魔女。いや、廃墟の魔女かな?」

「やあやあ、蛇の国の魔王の眷属。いや、忌まわしき魔人かな?」

魔人と呼ばれた者は、太楽の海花のハオ。100年近く昔と姿が変わらない者。

・・・

風の無きその場で、鴎威の上着がはためき、身に纏う様々な装が姿を現した。

・・・

「わざわざ、この地に来た?」

「ははは、前暦より続く我らを見下すか♪」

「帰りなさい。お願いではない。命令だ。」

「ははは、つぶされたいのかい?」

「やってみるか、雑物が?」

「瓦礫の山の王になったつもりか?」

「愚者に言われたくないわ♪」

「血が火になり、火が炎になり、業炎の灰塵となって巻き上がらん♪」

・・・

リアニン大陸極東の赤道直下の島国「緋の国」の訪人の「音立花の鴎威(おうい)」は、二振りの刀をさらけ出した。

創生魔女衆「九十九」の一人。

その刀、錬金学式装刀「阿・蔓包み(かずらつつみ)」在りし。

その刀、錬金学式装刀「吽・箱の庭(はこのにわ)」在りし。
晴暦3099年、不死の痛みを持つアフラマーン
晴暦3099年4月。

「やあ、この世界」。

「久しぶりの陽の光だ」。

・・・。

「それ」は、どこかの町の近くの鉱山入り口にいた。

ここは、どこだろう。

空を見上げ、「樹の大地」を見た。

「まだ、あの大地は見えにくいんだ」。

・・・。

「今日は、何年の何月の何日だろう?」。

「暦すらわからないや」。

「だけれど、アレの匂いがする」。

「歪なアレの匂い」。

・・・。

「それ」は、錆びた線路を伝って歩いた。

町が見えた。

「あれは、・・・サン・・・かな?」。

「サン」、遠い昔、切り倒されたスーリア国にある元世界樹。

「かなり歩いたみたい・・・」。

全身の埃を軽く掃った。

・・・。

「この時代には、あの手の連中はいない・・・みたい」。

不死を求める王、不死を求める騎士、不死を求める異界の者、不死を求める軍団・・・。

「不死」といっても、求めていたのは、「不死の身」だけ。

「不死」ではなかった。

私が、「私」でなくなったのは、いつのことだろう。

出合った者は、皆、私は見送ってきた。私が知る者、私を知る者は、誰も、もう、いない。

でも、あの時・・・、最初に会ったのは・・・、「無」。

<お前は「非ず」となった>、「無」は、そう言ってた。

私は人でも何でもない、「完全な不死」の「非ず」。「アフラマーン」と言う名前だったと思う。

私は町を目指し、歩き進んだ。「アレ」との会合の為に。