[ ふらくたる -FRACTAL- DripDrops! ] - [0450~0436]
晴暦3007年、酒歌水蛇のアリューシャ
晴暦3007年5月23日朝。

朝日が昇り始めた極東のスーリア国。

5年以前から王政より民主化運動されつつあったスーリアだったが、

内政のごたごたが長続き、完全民主化に至らずにあった。

・・・。

スーリアの東の港町サン海花の居酒屋「はるきや」に、

その者が昨日から飲み続けていた。

「ねぇ・・・ジェファ~・・・。あに、寝てんのよ!」

「あんたが国家拘置所から開放されて、あに、ぐだぐだやってんのよ~。」

・・・。

「悪魔殲滅だか、悪魔しばくべしとか、なんかよくわからん条件引き受けて、」

「情報集めとか言い訳しながら、あらしと一緒に酒飲んでるって、あんよ!」

・・・。

ガシャーン!!

「てめえ!悪魔だかなんだか知らねえが、店先で暴れんな、うぉらああ!」

居酒屋前の通りで豆腐屋のおっちゃんの怒号が響いた。

・・・。

「ほら~、悪魔暴れてんのよ~、なんとかしなさいよ~。」

「おい、ジェファ・・・、白目向いて寝てやがる・・・。」

・・・。

あたしがのれんをくぐって、怒号先を見た。

なんだ、ありゃー。

あれが「悪魔」なん?

・・・。

「うっせー!!ひとが水っぽい酒飲んでる最中に、あに、邪魔してんのよ!!」

両手首をくいっくいっと捻ると、身の回りに多くの水の塊が浮き始めた。

水玉がねじれながら、うねる蛇のような形を作った。

それは「水蛇」と呼ばれた何か。

その水蛇をおもむろに悪魔にぶっかけた!

ぶっかけた、というには、その威力はぶっかけるとは違うものであった。

はじき飛ばされた悪魔は通りの交差点の店に突っ込み、水しぶきで汚い虹が出ていた。

・・・。

「うーん、すっきり♪」

満面の笑顔で居酒屋にその者は戻っていった。

・・・。

その者は、川登のアリューシャ。

スーリア国の戦歌姫の「シ」の音称、アリューシャ・スー・シンとも呼ばれている。

・・・。

「ジェファ~、その気絶している振りやめて、さっさと準備はじめなさいな。」

戦歌姫のジェファは、むくりと起き、そそくさと居酒屋を出た。

・・・。

「・・・。あ、ちょと!ジェファ!お会計は・・・!?」
晴暦3007年、ニューラルジアの痛み
晴暦3007年5月22日。

「痛覚の、それも神経痛の悪魔・・・。」

大全太楽の八目(やつめ)は目を細めた。

「っつ!」

八目、ラテ、そしてジェレイドに痺れに似た痛みに屈し、地に顔が触れていた。

・・・。

<こちらの世界は、にぎやかですね♪>

<にぎやか過ぎて、肌がぴりぴりしますね♪>

<にぎやか過ぎて、「バベル」が再出する事です♪>

<「ヤンヤディラ」は何を考えているやら♪>

<「フラクタルの重版」も何を考えているやら♪>

<「魔導書の紙魚」による「痛み」でしょうか♪>

<そう♪>

<「痛み」はすべてのものが有するもの♪>

<感じ取りなさい、他の痛みを♪>

<感じ取りなさい、己の痛みを♪>

<喜びも、怒りも、悲しみも、楽しみも♪>

<知ること、学ぶこと、考えること、諦めないこと♪>

<そう♪>

<絶対防御の方♪>

<「図書守の龍」に伝えなさい♪>

<「心痛の悪魔」が間もなく発出する事を♪>

「待って!あなたは本当に「悪魔」という存在なのですか!?」

痺れで動けない中、八目が呼び止めようとした。

<さて♪>

<みなに♪>

<均等の痛みを♪>

<では♪>

・・・。

神経痛の悪魔、ニューラルジアは、

独り言の如く吟じつつ、

各々の目に風が触れるほどの痛みを与え、その場から姿を消していた。
晴暦3007年、絶対防壁の八目
晴暦3007年5月22日。

「ラテさん。見極め不足は、怪我の元ですよ。」

「ジェレイド卿。先見の明無きは、落命の元です。」

「その者」は地に刺さった杭を抜きつつ、2人に対し諭した。

・・・。

「ジェレイド卿、人に所構わず手を出す癖は治りませんね。」

「いや、そもそも治すということを知らないのですね、ずっと昔から。」

「ああっ!?たらくの子飼いに、言われたくないわぁあっ!!」

・・・。

「トロアの騎士の称号持ちがその程度とは・・・。」

「イルタリアに出現した<3本目のバベル>領域に着いたとたんに襲ってきて、」

「それでありながら、ほかに手を出すとは。」

・・・。

「それに、ラテさん。」

「あなたは、このような危険な場所に悪魔狩りというだけの理由ではなのでしょ?」

「まあ、あなたは怪我無き事だけに注意すれば良いだけですが。」

「ん?あれは・・・。」

「痛覚の、それも神経痛の悪魔・・・。」

「厄介ですね、あれは・・・。」

・・・。

大全太楽堂本舗総務部兼防衛部所属。

「絶対防御壁」を持つ、八目(やつめ)。

何事にも屈しない、というより、もう手の出しようの無い何かの存在であり。

その八目であっても、「厄介」と言わせる「悪魔」とは・・・。
晴暦3007年、凶兎暴兎のジェレイド
晴暦3007年5月22日。

「!?」

ラテは、刹那の気配で、足の踏ん張りだけでは足らず、

左手左指が地面に食い込んでまでも力一杯、今いた場所から咄嗟に避けた!

ずどおおおおんっ!!

何かが突貫して、さっきまでいた草っぱらが砂塵激しく吹き飛んだ!

「あんだあああっ!?」

「なにしやがっ・・・、ああっ!?」

「てめえ!!、2年前の強襲ウサギ野郎かああ!!」

・・・。

「ンハアアアアアアアアアアアアアァァ・・・。」

「なんで、避けるんだぁあ!?」

「斬られなきゃだめだろ?」

「たぁあ!らぁあ!くぅう!!!」

・・・。

「食い足りないんだよぉ・・・。」

頭身の低い「それ」は首をゴリゴリッと鳴らした。

「あああああああああぁ・・・。」

「狐は、素直に、狩られろやぁあっ!!」

離れた位置の「それ」の無動作から、ラテの寸でまで飛びかかれていた。

(っ避けられない!!)

「それ」よりも早く、ラテの眼前に「杭」らしき物が地に刺さった。

「!!」

「!!」

「それ」自体も杭らしき物への回避の如く、宙で態の向きを変えた。

「杭」らしき物は、透明の壁らしきものを纏っていた。

・・・。

頭身の低い「それ」は「人食い兎」の蔑称を持つトロアの国家騎士「ジェレイド」。

数十年に渡り大全太楽と因縁ありし「小さな怪物」と。

・・・。

「ラテさん。見極め不足は、怪我の元ですよ。」

「ジェレイド卿。先見の明無きは、落命の元です。」

杭を抜いた「その者」は、2人に対し諭した。
晴暦3007年、雷輪来々のラテ
晴暦3007年5月22日。

「おるぁっ!!」

「ちまちま動くなっ!!つーのっ!!」

「当ったるもんが、当たんねぇえじゃねえかっ!!」

「痛い!っつうんじゃ!こん悪魔がああ!!」

「感電しろやっ!おるぅあああっ!!」

空気中に含まれる水分を利用し、「狙った所」に落雷させていた。

そう、「狙った所」だけに!

・・・。

フュゥゥゥウウウン、

こちとら、杖状の発電加速器が壊れる限界すれすれで高出力発電させているっつーの。

「おるああああ!!当たれやあああっ!!」

「!?」

刹那の気配で、足の踏ん張りだけでは足らず、

左手左指が地面に食い込んでまでも力一杯、今いた場所から咄嗟に避けた!

ずどおおおおんっ!!

俺の方に何かが突貫して、さっきまでいた草っぱらが砂塵激しく吹き飛んだ!

「あんだあああっ!?」

「なにしやがっ・・・、ああっ!?」

「てめえ!!、2年前の強襲ウサギ野郎かああ!!」

・・・。

俺はラテ。太楽の車輪帝のラテ。只の「雷鳴の魔法使い」だ。

なんで、あん時の○○ウサギ野郎がここにいんだああ!?ぶっころ!!
晴暦3007年5月20日。

「わが子の為に何でもするのが親でありますよ。」

・・・。

「言われるままでの如く、なされるがままの如く、」

「さも、それが当たり前の事のようなこの世界の在りかたを、」

「<あの子達>が今歩む道は、<あの子達>が自ら見て、聞いて、感じて、<考えた>からでこそ故に。」

・・・。

「私は<それ>を否定しません。否定出来ません。」

「気付いた時には、いつも遅すぎる。」

「気付く事無く、終わる前に。」

・・・。

「人が人であるための情報は数えられるほど少なく、」

「人が人であるための存在は限りなく多い。」

「人はそれを容易く忘れるから傷つけあってしまう。」

「<あの人達>もそのように・・・。」

・・・。

「カフア殿、よろしいですか?」

十五連盟のブライオッシュは、「答え」を促した。

・・・。

「私の成せる事を成しましょう。」

「<あの子達>の為に。」

「<あの子達>の未来の為に。」

・・・。

太楽の海花のカフアは、遥か彼方の「無限回廊」へと歩んだ。

<考える>事を諦めないで。
晴暦3007年、十五連盟のブライオッシュ
晴暦3007年5月20日。

「あー、なかなか状況が躓いておりますねえ♪」

「遥か昔の魔女の真祖と、異端の天上人が、なんか拮抗してますねえ♪」

「そういえば、僕がこの世界に来たときにも、なんと言うか「混沌とした世界」でもありましたね♪」

「それがまた、似たような「状況の再現」の雰囲気もありますね♪」

「それにしても、」

「あなたの娘さん、バレリィ嬢もなかなかやりますね♪」

「開錠できない「白すぎる世界」を容易く開けてしまったのですから♪」

「で、」

「良かったのですか?あの娘さんの御母上のカフア殿が太楽本家に造反する行為をして?」

・・・。

「わが子の為に何でもするのが親でありますよ。」

・・・。

「動きますよ♪この掃き溜め如きのこの世界は♪」

「我々、十五連盟は計画通りに展開中です♪」

「もう少し、あと、もう少しの時間がかかりますけど。」

「僕は考えました。」

「「人」とは異なる異質な時間をかけて。」

「十五連盟は「ただの一歩」に過ぎません。」

「つかんで魅せますよ、「希望への夢」と「希望の未来」を。」

・・・。

十五連盟と名乗る組織の「ブライオッシュ」は高揚していた。
晴暦3007年、竜宮楼の撃華のココロ
晴暦3007年5月20日。

「前暦の魔法師よ、お待ちくださいな。」

「時、永きに渡り、縛り付けられた鬱憤もあることでしょう。」

「<バベル>に巣食う、下劣な邪竜への想いも積もり積もってあることでしょう。」

「しかし、まだ<それ>には使い道がありまする。」

「今、しばらく、時を置かれてはいかがでしょうか?」

「お?」

「聞く耳持たずでございますか。」

「まあ、それもわからないこともありませぬ。」

「ああ、<あの者>への<恩義>と<願い>故ですか。」

「力ずくでもございますか。」

「ならば、お相手、致しましょう。」

「そうそう、」

「<世界の果て>に縛られた<アンチェイン>から、言伝が、」

「<痛い目をあわせてやってくれ>と。」

「で、」

「本当に、お相手してもよろしいですか?」

「知りませんよ♪」

「手加減の仕方を、遠の昔に忘れておりますから♪」

「私も<お願い>故、有りき也て♪」

・・・。

天空の樹海雲の<竜宮楼>より参じた、守護撃華の太守「ココロ」が地の無き空の間を<前暦の魔法師>へと歩み寄っていった。
晴暦3007年、月鼓雲琴のオブリヴィオ
晴暦3007年5月20日。

「んんんんんん♪」

「長く感じたあの暇♪」

「まったく、何のつもりで<世界の果ての柵>に束縛されていたのか♪」

「あー、そういえば。ちと、暴れた事で<総力>の挙句に、囚われてしまったんだったっけ♪」

「あれは、失敗したな。うん、失敗した♪」

「で。」

「<あれ>が、<それ>かー。」

「どう見ても、<あれ>、ニドヘグじゃん♪」

「<あれ>、星殻から落ちてきたんだ。」

「なんか、知っている形と違うなー。」

「そっか。環境適応システムが働いたんだな、たぶん、きっと。」

「なんだったっけ、<ディバイド>って今は呼ばれているんだっけ。」

「ありゃ、<普通の者>じゃ、どうしようもないよな。」

「あれ、<チート・スキル>持ちだし。」

「で。」

「<オーダー>では、あれ潰すんだな。」

「あの<世界の果ての柵>から解放されたんじゃ仕方がないわ♪」

「バレリィ殿への恩義があるし。」

「<お願い>なら仕方がない♪」

「ありゃ?あれ<バベル>じゃん。<まだ>生えてるのかよ。」

・・・。

「と、言ってるところにお迎えですかー。」

「この時代にゃ、魔女が結構増えてるって聞いてたけど、」

「<本物の魔女>を魅せつけてやりますか♪」

・・・。

<世界の果ての柵>から解放された、魔女の真祖「オブリヴィオ」が異様な形の得物を刃音を鳴り響かせた。
晴暦3007年、心淵魂奪のイグナスティア
晴暦3007年5月17日。

波の上下は船3隻以上。

波間に見えた海面を走る怪物。

ユナ姫指揮する偽装武装船。

各自の持ち場へと、慌しく船内を走る船員や部隊員。

報告通りかとユナ自身が激しく荒ぶる波しぶきが舞う中、欄干に掴まり、その姿を目視した。

あれは、・・・ケルピー型じゃない・・・。

あれは・・・。

「各自に達する!目標はベーシック・ケルピー!イグナスティアだ!!」

彼奴が「再び」現れるか!

彼奴が「再び」私の前に!

「マルクーン!装備、アー・マリ・アード!弾薬、スターク・シックス!」

「絶対に船に近づけるな!」

「船ごと魂を奪い取られるぞ!」

・・・。

「観測、報告!」

<目標、距離千五百まで接近。周囲にクロトビウオを多数確認。>

・・・。

こんなときに・・・、

こんなところで・・・、

第七艦隊壊滅の怨魂を果たせるか!?

・・・。

数え切れない海行くの者を深遠の海に引きずり込んだケルピー。

潰せる好機とも言えるか?

心淵魂奪のイグナスティア。

・・・。

ユナには、目的すらわからぬケルピーに語れることは、何も無かった。
晴暦3007年、激華静華のユナ
晴暦3007年5月17日。

「観測、報告。」

<目視による観測。五時方向、距離三千。波間に影。電探には反応なし。>

「目標は確認できるか?」

ズズーンッ!!

浮流機雷が数機破裂した。

<目標、四脚。海上を高速移動。>

「報告にあったケルピー型か・・・、まずいな。」

ギリリリリリリ!

「各員、全方位確認。距離千五百まで接近されないよう各個迎撃せよ。」

ビイイイイイイ!

<十二時方向、機雷原。>

「次から次へと・・・。マルクーン!!狙撃準備!!」

「ユナねえちゃん!アタシに何か出来ないんか!?」

「無い。貴様らはここにいない。そういうことになっている。」

ビイイイイイイ!

<姫様!狙撃ってマジですか!?マジなんですか!?!?>

「あー、マジマジ。さっさと狙撃準備しろ。」

<姫様!こう、船が揺れまくると、狙いづらいんですが!!>

「つべこべ言うな。準備しろ。」

「ねえちゃん。何かしたいんだけど。」

「わかったわかった。医療班の手伝いをしてくれ。」

「もっと・・・もっと、派手なことを・・・。」

「おとなしくしとけ。」

・・・。

揺れる船内をとぼとぼとユーフォは医療室に足を向けた。

・・・。

さすがに大型ゴーレム4機載せてる高速輸送艦では荷が重い。

ありえないことを願いたいが、近接戦の用意をせねば。

大太刀二振り、門破り四本で対応できるかどうか。

・・・。

「姫様」、「ユナねえちゃん」と呼ばれていたユナなるもの。

ユナ・メータ・シーバウス。北端の王立国家シーバウスの第三王女であったり、「魔王の眷属」の一人でもあったり。

・・・。

あー・・・、あの「自分勝手の魔王」にまた何を言われるやら。
晴暦3007年、限無爆熱のユーフォ
晴暦3007年5月17日。

アタシはユーフォ!太楽の「天花火」のユーフォ!自由な爆発系魔導士だ!

うん。フリースタイル、フリーダム。

北リアニン大陸最北端の王立国家「シーバウス」の「将軍」岬から船に乗り3日ほど経っとる。

最初はシーバウスの高速艇に乗って船酔いしているニナの横で爆睡している真っ最中。

そして、今、偽装された武装商船に乗っておる。

そして、また、厨房で爆睡しとった。

・・・。

ぐ、ぐがーーーーーーーーーー。

ぐ、ぐがーーーーーーーーーー。

ぐ、ぐがーーーーーーーーーー。

・・・。

シーバウスのユナ姫姉ちゃん将軍に何とか連れて来てもらっている代償に、

猫福亭料理を船内で作ってるニナの横で寝てた。

うん、船の中で特にやることが無い・・・。

ってか、何が出来るか?と聞かれても、特に出来ん!と胸張って!!

うん。自慢できることじゃないわー。

腹が減っては、何とやらで、・・・、寝とる。

「ユーフォも料理手伝ってーな。」

・・・。

「ん?」

・・・。

ニナがなんか言ったような気がした。

でも、寝る。

ニナがなんかわめいてる。

「くっ!この・・・。」

といいつつ、食材を何とか切り分け炒め、乗員分のご飯をニナが作っとる。

・・・。

「・・・ん?」

なにか・・・壁伝えで何か聞こえた。

つい、むくり!と起きてしまった。

「な!なんなんよ!ユーフォ!心臓にわるいんよ!!」

「何かきた。」

「ふぁ?なにか?・・・きた?ご飯はまだなんよ?」

<<ギリリリリリリ!!「>>

船内に大きな音が響いた!

「警報!?警報なん!?」

<<前方に機雷原、衝撃に備えよ!!>>

<<繰り返す!前方に機雷原、衝撃に備えよ!!>>

・・・。

慌てふためくニナと違い、

これ、機雷じゃない・・・なんなん?

なんの気配?

モンスターっぽい気配?

「ふっふっふ・・・、アタシの出番だな!!」

そして、気づいた。

「ここ、船の中じゃねーか!!!」

「戦略魔法陣、作れねーじゃねーか!!!」

「やることねーじゃねーか!!!」

と、少しだけ憤慨してみる。
晴暦3007年、限無活理のニナ
晴暦3007年5月17日。

あたしは猫福の海花のニナ。大衆食堂「猫福亭」の称号「猫福帝」を持つ者。

北リアニン大陸最北端の王立国家「シーバウス」の「将軍」岬から船に乗り3日ほど経つ。

最初はシーバウスの高速艇に乗って船酔いし、

そして、今、偽装された武装商船に乗ってる。

そして、また、船酔いしてるんよ。

・・・。

うぐぅ・・・。

・・・。

シーバウスのユナお姉さんに何とか連れて来てもらっている代償に、

猫福亭料理を船内で作ってる。

うん、主に会計やってたんで、料理はうまくない・・・。

でもまあ、料理できる要員は貴重らしいので手伝ってるんよ。

家から借りてきた油炒め用の一式を苦難駆使しつつも、それらしき料理を作る・・・作る・・・。

腹が減っては、何とやらで。

「ユーフォも料理手伝ってーな。」

・・・。

「ん?」

・・・。

返事が無い。

姿は見える。

寝てやがる・・・。

この揺れる船の中を大いびきで「ガーガーグー!」と。

「くっ!この・・・。」

といいつつ、食材を何とか切り分け炒め、乗員分のご飯を作ってる。

・・・。

「・・・ん?」

なにか・・・壁伝えで何か聞こえた。

がばっと、ユーフォが起きた!

「な!なんなんよ!ユーフォ!心臓にわるいんよ!!」

「何かきた。」

「ふぁ?なにか?・・・きた?ご飯はまだなんよ?」

<<ギリリリリリリ!!「>>

船内に大きな音が響いた!

「警報!?警報なん!?」

<<前方に機雷原、衝撃に備えよ!!>>

<<繰り返す!前方に機雷原、衝撃に備えよ!!>>

・・・。

「ああああああ!!うあああああああ!!なんなんよ!なんなんよ!!」

と、慌てふためいてみた。
晴暦3007年、烈風迅雷のフェンネル
晴暦3007年5月15日。

ここは南リアニンの南端の公国「ミールヤン」付近の上空。

公国「ミールヤン」は、南の極地の大陸「フォックニウス」に最も近き国。

・・・。

「ホイホクさん?フォックニウスまでもう少しなん?」

「なおーん。」

箒の先に鎮座するカーバンクルの「ホイホク」は応えた。

・・・。

「んー・・・。アリィーも無茶言いよるわ。」

「ドット・ウィッチ・プロジェクト?」

「あーあれね、あれあれ。あれ?」

「ちと、古い記憶なんでよく憶えてへんし。ってか、忘れたわ。」

「ん?」

・・・。

まだ見えぬ「フォックニウス」の方角に、天上から一筋の光が降りた。

それでも目が眩む光の強さだった。

「なんなん!?」

「なんなの!?」

上空を凝視した。

「んーーーーーー・・・。」

「あ。」

「あれ、・・・サピヲの光矢やん。」

・・・。

「ライブラリ・2・0・9にリンク。」

「アクセラレータ・ハイスピード選択。」

「コード・3、リミット・カット。」

「加速するで!!」

箒の吸気口が、「フオオオオオ!」と鳴り響き、箒の穂先が高振動を起こし、チリチリとした放電が始まった。

「ホイホクさん!振り落とされんように、しがみ付いときや!」

「なおーん♪」

統合自治組織「魔女の家」、魔女「フェンネル」が「フォックニウス」に向け、空飛ぶ箒を加速させた。

・・・。

「ドット・ウィッチもよくわからんが、この世界もよくわからんわーーーーー。」
晴暦3007年、幻影誘奏のフラン
晴暦3007年05月09日。

ここは北の極地の大国「クリスタルズ」の湾。

クリスタルズは外界、諸外国とは隔絶さえている。鎖国である。

・・・。

クリスタルズの自称魔導士のファンデメルヴェが、例年とは異なるパターンの拠点防衛妖精樹「アヴァロン」を発動させた。

・・・。

「禁断の果実、アヴァロン。」

「忘暦の遺物、アヴァロン。」

「最果ての島、アヴァロン。」

「いやはや、「うわさ」以上の圧力がありますこと♪」

「はてさて、「うわさ」の如く♪」

・・・。

暴風暴雪の大地に、巨大な白き蔓がねじれ暴れ、氷の人形達を放つ妖精樹「アヴァロン」を眺めながら、

フランは、不敵な笑みを浮かべた。

フランは「朱の杯」を携え、戦歌と手招きに呼応するかの如く、周囲に青い炎が迸り、

炎のそれぞれがまるで下顎のような形状を現し始め、威嚇の咆哮を響かせ始めた。

・・・。

「さてさて、ファンデメルヴェよ、どうしたものかな?」

「彷徨魂魄奏者の、シーバウス王国、戦歌姫ドの称、このフラン・シードに通じるものかな♪」