[ ふらくたる -FRACTAL- DripDrops! ] - [~0451]
晴暦3007年、弓取戦舟のぱらぺーにょ
晴暦3007年5月末。

「世界の狭間」の球状大樹「ギルガメシュ」に、「それ」は接舷されていた。

意思を持つ船「クラウソラス」。古の船。 最初の船。 最後の船。

・・・。

「で。」

「それ」は手をひらひらと仰ぎ始めた。

「わたしに、何用でございますん?」

「そりゃねー、<世界の表面>は気になりますよー♪」

「でもまー、<よそはよそ、うちはうち>の観点からすると、」

「まったくの他人事でございますの♪」

・・・。

「ですが、」

「あなたは、<こんなところ>まで来られました♪」

「<太楽の海花のバレリィ>はここまで来られました♪」

「<世界の表面>は余程のことになっているのでしょう♪」

「わがまま<ウェブスィーパー>の信号も拾ってますしー♪」

・・・。

「<妖精>とかー、」

「<悪魔>とかー、」

「<アリス>とかー、」

「<アリアリアの夏>とかー、」

「まーーーーーーったく、興味ありませんが、」

「<ウェブスィーパー>の自由奔放な振る舞いは、」

「うらやま・・・、けしからん!ので、」

「あなたの申し出、承り申しますわ♪」

・・・。

「それ」は、太楽バレリィと結託し、

「それ」が属していた名の十五連盟「フィフティーナ」を起こし、

後の動乱の時代へと先立った。

・・・。

箱舟「クラウソラス」の同心「ぱらぺーにょ」は満面の笑みを浮かべ、

<世界の表面>へ進出を始めた。

晴暦3007年の春。

「甘美」と「憂鬱」の始まりであった。
晴暦3007年、錯音濃霧のミスト
晴暦3007年5月末。

そこは地の底、<天繋ぎの根>。

太古の世界樹の残骸が作った長大な洞窟とされている。

ただ、大陸間規模の広大さがあるため、大規模探掘団体ですら最深部に至ることは無かった。

最深部に何があるともわからない未踏の地でもあるとされていた。

・・・。

魔弾の射手、シーバウス王国戦歌姫ラの称、長耳「ポラノ・シー・ラ」は、

不敵な笑みを浮かべながら、戦歌を奏でて、弾丸を操っていた。

・・・。

「おいおい、ポラノさんよー、」

「一発でヤれや、一発で。」

ちっ、外れた。

一個師団相手くらい余裕なポラノさん、なにやってんすかー?

ぱぱっとヤれよ、ぱぱっと。

また、外れた。

たかがばけもん一匹くらい片付けられんのかー?

あー、全弾外れた。

向こうのターン、来るじゃないっすかー。

・・・。

「<雲合霧集>!」

「<雲集霧散>!」

「<五里霧中>!」

「<雲散霧消>!」

「<錯音濃霧>!」

・・・。

シーバウス王国戦歌姫レの称、長耳「ミスト・シー・レ」は、

<天繋ぎの根>の土中から<霧>となりえる歌を始めた。

発生した素材不明のガスが混合し、洞窟内大気が歪み始めた。

・・・。

「緋の国」発祥の「一分間戦争」されちゃ、たまんねーっすから。

「吸気!圧縮!膨張!爆散!」

「緋の国」の魔女側にのみ爆熱・爆圧・爆風が襲いかかった。
晴暦3007年、魔弾魔銃のポラノ
晴暦3007年5月末。

そこは地の底、<天繋ぎの根>。

太古の世界樹の残骸が作った長大な洞窟とされている。

ただ、大陸間規模の広大さがあるため、大規模探掘団体ですら最深部に至ることは無かった。

最深部に何があるともわからない未踏の地でもあるとされていた。

・・・。

「おいおい、こんなとこで銃使うんかよ。」

「緋の国」の魔女「音立花の雷籠(らいろう)」は、

戦戟「蝦蟇穿ち(がまうがち)」で襲い来る銃弾を叩き退けた。

・・・。

「おほ~♪」

「よくまあ、この暗い中で高速弾に対応できるもんなんか~♪」

次弾装填っと。

「おいおい、ポラノさんよー、」

「一発でヤれや、一発で。」

うっさいな~。

「こんだけ湿気多けりゃ、あたしの<錯音濃霧>の方が使えるじゃん。」

声でっけ~よ、ミスト。場所われんじゃね~か。

「やっちゃう?ぱぱっと、やっちゃうしかないな~♪」

「さぁ~てっ♪何合持つかな~♪」

<ズドンッ!!>

<ズドンッ!!>

<ズドンッ!!>

雷籠の急所を狙えない、まったく的外れの向きに銃口を向け、3発撃った。

「動けるかな~♪避けれるかな~♪逃げれるかな~♪」

3発の弾丸が自意識を持っているかの不自然な軌道をとった。

弾丸自体が滑らかに、鋭角に、連携取るかのように、糸引く涎の獣の牙の如く。

・・・。

魔弾の射手、シーバウス王国戦歌姫ラの称、長耳「ポラノ・シー・ラ」は、

不敵な笑みを浮かべながら、戦歌を奏でて、弾丸を操っていた。
晴暦3007年、緋の国の音立花の雷籠
晴暦3007年5月末。

そこは地の底、<天繋ぎの根>。

太古の世界樹の残骸が作った長大な洞窟とされている。

ただ、大陸間規模の広大さがあるため、大規模探掘団体ですら最深部に至ることは無かった。

最深部に何があるともわからない未踏の地でもあるとされていた。

・・・。

高い湿度と油臭さが満ち、水の流れる音が響き渡り、

天井の蛍ゴケの光で人工の洞窟ではありえない明るさを保っていた。

この場所で独自適応進化したと思わしきシダやゼンマイなどが生い茂っている。

大きな動物は見当たらないが、何らかの虫の鳴き声が合唱されている。

・・・。

「ここらへんはどやろ?」

足元の湿った土をひとつまみし、舐めてみた。

「油の味が濃うなってきやったな。」

土の中には<油カビ>が混じっており、それが<燃える水>を作っていた。

昇ってる来る油の匂いが濃い縦穴を選び、無造作に飛び降りた。

「ええ油の匂いや。もう少しやな。」

・・・。

降りた先の洞窟の奥の蛍ゴケの光が強く光って暗くなってくる。

「ほう。先客かい。」

暗順応を効かし、闇の奥の情報を拾った。

「なんえ、あの装備、シーバウスやんけ。」

「あっちも気ぃ付いてやん。」

闇の中から閃光が走った。

「しょーがないにゃー。」

・・・。

リアニン大陸極東の赤道直下の島国「緋の国」の「音立花の雷籠(らいろう)」は、得物の戟で閃光を撃ち払った。

創生魔女衆「九十九」の一人。

その戟、錬金学式装槍「蝦蟇穿ち(がまうがち)」在りし。

「おいおい、こんなとこで銃使うんかよ。」
晴暦3007年、異界転々のフォージー
晴暦3007年5月22日。

ここはスーリアの港町「サン海花町」。

私、フォージー・ファウは、

5年前からハオさんとこの雑貨店、大全太楽堂海花支店の居候をしております。

私は、ハオさんのお使いで、海花町役場総務課に定例の業務報告の手続きに行くところです。

・・・。

私は、5年前は<別の世界>にいました。

いや、いやいやいや、

5年前どころかもっと以前から、数え切れないほどの<別の世界>を転々と飛ばされていました。

<ここの世界>では私の容姿に似た方々が多数存在されます。

ここ最近、「悪魔」なる者たちが出没しております。

私の居候先にも「睡魔」なる悪魔が多数居候しております。

彼らの存在はどこかの世界で見知ったような記憶があります。

そもそも、<ここの世界>には、見覚えのある<別の世界>の文化が見受けられたり。

特に、言語とかには<ろうま>や<かん>、<わ>、<えすぺらん>とかの影響もあったり・・・。

かといって、以前いた<別の世界>は戻れた試しはありません。

今、<ここの世界>にいる「悪魔」は、記憶にある「悪魔」とはなんか違うような・・・。

・・・。

と、町役場に行く途中でふと脳裏に浮かんだのでした。

<別の世界>から転々する度にいつもあるのは<ぴーすめいかー>なる存在でした。

なんで、今頃思い出したのやら・・・。
晴暦3007年、一手百手のチサト
晴暦3007年5月21日。

私はチサト。太楽の勇帝のチサト。只の「召喚師」れす。

全壊した太楽本店の再建もなんとかなりそうだったのれ、

ラテやん連れて、まず実家の天河トキト町に帰るんれす。

・・・。

本店から実家まで電車で半日くらいで着くんれす。

電車の中でうとうとしてたら、ぼんやりと<声>が聞こえたれす。

・・・。

<ティファが動いているぞ♪夏を再現する気だ♪時間が無いぞ♪>

・・・。

・・・うぬぅ・・・、ティ・・・ファ・・・。

・・・、ティファ?

ティファ!?

思い出したれす!ティファ!

5年ほど昔に、わたひを<暗闇>に蹴落としたティファ!

・・・。

なんで、ティファが、<また>動いているんれす?

あんときゃ、<アリアリアの夏>前夜れしたが・・・。

やな予感がするれす・・・。

ラテやん!家に着いたら得物用意するんれす!

「うっせ!わあってる、わあってる!ティファだろ?ティファ!!」

・・・。

あー・・・、同じ<声>聞こえていたんれすね・・・。

「ありゃ、あのうっとおしい<ナイトメア>の声だったじゃねーか!」

「わかってる、わかってる。ティファのやろお、<上>だよ、<上>。」

<上>って・・・、<樹海雲>?

あの樹海雲ってどうやっていくんれす?

「あるだろ?おまえの百鬼とか悪鬼とかに伝って?んんん、なんかおるだろ!?」

・・・。

んんんんんん・・・。

あ!<レンレンルー>ならわかるかもしれないれすよ。

「んじゃ、探すか。レンレンルーを。」
晴暦3007年、南界統祇のラフィン
晴暦3007年5月23日。

南洋「ヒヒイロノナミ」を挟み、

南極大陸「フォックニウス」に最も近き、南リアニン半球最南端「メルカトラバ」。

・・・。

南洋ミラーズの軍事部門ランフーンの指揮官「ラフィン・ミラーズ」は「石化の魔女」と対峙していた。

そのような魔女を目前としながらラフィンは威風堂々としていた。

(なにかある・・・。)

石化の魔女「メルカトラバの瞳」は察した。

ラフィンは二振りある大太刀の一振りを、すっと引き抜き、魔女に刃先を向けた。

「さて、その力、いつでも私に使うがいい。さあ。さあ。さあ。」

ラフィンの「念・感情・思惑」、それらが<一切>感じられなかった。

そうなれば、石化の力など無力同然。

魔女自身が<憶測>を持ってしまった。

遅すぎた。

ラフィンは魔女の懐に潜り込んでおり、一閃が走った。

「ざんねん♪」

「うーさぎちゃんを忘れてもらっちゃ困るなあ♪」

太楽の魔女、蔑称「赤兎」のスカーレットがミラーズ兵を<腐敗>させ、

ラフィンと石化の魔女との、その隙間に入り込んでいた。

ラフィンの剣圧の一閃を<腐敗>させ、ひょこひょこと石化の魔女を担いで数歩引き下がっていた。

・・・。

「・・・ほ、北界のたあらあくうううううっ!!!」

「おまえらは北界だけで商売してりゃいいんだよ!」

ラフィンは声を荒けた。

「ここは南界、人のシマに土足で入り込んでくるんじゃねえよっ!!!」

「どこにでもおまえらは現れては、こっちゃ商売あがったりなんだよっ!!」

「<中枢の犬>ぅ、いや、<中枢の化け狐>めえっ!!」

・・・。

「・・・ふぅ。」

「・・・、これ以上、手出しするんなら、」

「北界、<焼き飛ばす>よ。」
晴暦3007年、メルカトラバ岬の瞳
晴暦3007年5月23日。

南洋「ヒヒイロノナミ」を挟み、

南極大陸「フォックニウス」に最も近き、南リアニン半球最南端「メルカトラバ」。

・・・。

南極大陸に侵攻間際のコングロマリットカンパニー「南洋ミラーズ」と<その者達>は対峙していた。

南洋ミラーズの軍事部門「ランフーン」はすでに南極に向け、高高度からの長距離攻撃を行った直後であった。

・・・。

ランフーンの指揮官「ラフィン・ミラーズ」は対岸の南極侵攻を目前としながら、

<二人の刺客>に足止めを食らっていた。

一人は、商売敵の大全太楽の魔女「赤兎」。

一人は、「メルカトラバの瞳」と呼ばれるセキュリティ・メデューサ。

どちらもランフーンにとっては、非常に厄介であった。

・・・。

ラフィンの持つ衛星軌道上の重攻撃砲妖精「サピヲ」による支援攻撃するには近すぎる距離であった。

・・・。

(<赤兎>は兎も角、メデューサは分が悪すぎる。)

(正面からだと<状況>に支障が出る。)

「・・・、さて、」

「この私が直々に相手するしかないな・・・。」

ラフィンは一人、前進した。

・・・。

<やあ、魔王の眷属。その勇み足は良し。>

<静心、それは道を開かん。>

<瞳の眼差し、察せられること無かれ。>

・・・。

メデューサ「メルカトラバの瞳」は、

心見透かす、その<心眼>をラフィンに向けた。
晴暦3007年、嵐流蜻蛉のカルヴァドス
晴暦3007年6月1日。

なにか、

変だ。

この一ヶ月、毎日のように現れていたあの「悪魔」。

どの悪魔もまったく同じ。

どこの街に行ってもまったく同じ。

今まで、何体、斬ってきた?

斬っても、また現れる。

「同じ悪魔」ばかりで「同じ記憶」を持っている?

なにか、

変だ。

<情報局>に<枝>が仕込まれている?

・・・。

「オマエ、ポンポン、イタクシタクナイ?」

お前達には<情報>を司る上位種がいるのか?

・・・。

いや、<情報局>どころではない。

これは、太楽だけを狙ったものじゃない・・・。

<全てが見られている>・・・そうなのか?

・・・。

「ネエ?オマエ、ポンポン、イタクシタクナイ?」

・・・。

「ポンポン、イタクシナイ・・・ノ?アレ?」

太楽の流帝のカルヴァドスは、長剣「蜻蛉斬り」にて悪魔「グライプ」を斬り捨てた。

・・・。

「情報局の<プロテクテッド・コネクション>がハッキングされている?」

「ティカ大婆さまに問いたださねば・・・。」
晴暦3007年、廻空戦女のヴァーティゴ
晴暦3007年6月1日。

霞みがかった早朝に駆け行く者がいた。

ワルキューレ最上級長<ラブシックネス>のマルチセンスから逃れる為とはいえ、

ガイドビーコン無しに駆け回ったのは幾年ぶりか。

<ディソートノミア>、いや、

かつてこの地の世界王として君臨していた<カレイドスコープ>も一目散に行方を眩ました。

・・・。

今、ここがどこであるかも皆目見当付かない。

虚空の城<エンジェル・コースト>からのグローバル・ポジショニング・システムによりマップが形成出来ない。

<エンジェル・コースト>に何かがあったのか?

<ラブシックネス>どころか、<バインドラッシュ>からの<ピング>が飛ばされている。

どういうことだ?

・・・。

もしや、

<エンジェル・ハイブ>の影響か?

・・・。

今は、それどころではない。

最上級長と再会敵すれば、こちらの身が消えかねない。

・・・。

憶測は多々あるが、こちらのインビジブル・モードを解くわけには。



なんだ!?

眩暈の戦乙女<ヴァーティゴ>は周囲を警戒した。

・・・。

この感覚。この臭い。

来るか!?

ハイブの<羽虫>!!
晴暦3007年、兆しの悪魔のサインズライト
晴暦3007年6月1日の日の出時間。

スーリア国のサン海花町にある定食屋「猫福亭」にあるものがいた。

ちょうど、日替わり朝定食の時間。

西の空はまだぼんやりと暗いが、定食屋の席は半分ほど埋まっていた。

その中で、桜カブトガニの素揚げ定食にかじりつく一人がいた。

殻が分厚く火が通りにくいが肉質がさばさばさっぱりした食感がまた人気のある食材。

大抵は夕食向けでありながら、朝に3皿目に突入していた。

「こういうときゃ、食えるもん、くっちゃかにゃあ。」

「こっちにこんなんあるんじゃったら、もっと早くきておきゃよかったん。むぐ。ばり。」

・・・。

<眠るにゃ、眠るにゃ、ずんずん眠るにゃ♪>

・・・。

「ん?」

「どっかで聞いたことのあるこのフレーズ・・・。」

「ま、いっか。」

「どうせ、睡魔かなんかが、にゃもにゃもいっとるんやろ。ぼり。ばり。」

「、くふ~。さてさて~。」

・・・。

そのものは蟹の脚をくわえながら、お勘定済ませて、定食屋の前の道に出た。

「どこなんかの?ここらへんにいる<あれ>がいるっぽいって、うぬぬぬ、云々。」

「それっぽい<なにか>見えんかの?ほら。」

「それっぽいもんはあったんよ、それっぽいもんは。」

「まあ、なんとかなるか。近くっぽいし。なんか。」

・・・。

目的地が見つけられない<兆しの悪魔のサインズライト>は腕組んで、「ぐぬぬ。」と、考え込んでいた。

今いる道の正面突き当たりに目的地の<大全太楽堂の海花支店>があった。

・・・。

「どうするか!どうするべきか!?」

「ん、はっ!感じる!!」

「こっちか!<エリンの園>への道しるべはっ!!」
晴暦3007年、幻想畑のライムギ
晴暦3007年5月31日。

<こちらの世界>に流されて、幾月年か。

<あちらの世界>では、終わりの見えぬ戦の響。

<畑の王>と共に、幾多の民草は彷徨い流れ。

散り別れて、一握りの穂は、道になき道を。

行き着く先には、ほんのわずかな希望の歌を。

・・・。

「雨、土、雲、空、・・・、それに、光・・・。」

「そんな言葉が、あの歌にあったな、と。」

・・・。

「<アーキテクト権限>があっても、わからぬものは、わからんよ。」

「<カーネル権限>があっても、わからぬものは、わからんよ。」

「見えるものが全てだと、」

「聞こえるものが全てだと、」

「<又聞きの又聞きは、真実にあらず>って、誰が言っていたのやら。」

・・・。

「<天劇の王>も、ああなってしまったら、いくら我でも修復できんよ。」

「カーネルが足りぬから、<システム>が作れぬ、作れぬ。」

「どこに行ったものかね、他のカーネルは?」

「まあ、スタンドアロンで、なんとかするか。」

・・・。

遠く、帰れぬ世界から来た<難民者たち>のライムギは、

クオムルの森のバス停で始発を待っていた。

・・・。

「さて、と。」

「西へ行こうか、東へ行くか。」

「願わくは、向かう先が、<エリンの園>であれ、と。」
晴暦3007年、ハローとオーレの天地舞踏
晴暦3007年5月22日。

闇の迷宮から抜け出た先が北極の閉鎖大国「クリスタルズ」。

時の迷宮から追い出され、「あれ」から五年経っていた。

・・・。

「あー・・・。」

「うー・・・。」

・・・。

「夜が来ないねー、ねえ、オーレ。」

「夜が来ないわー、ありえないわー、まじありえないわー、ハロー。」

・・・。

「ってか!よく考えたらなんでここにいるんよ!アタシ達!」

「オーレは考え込むから、考えないほうがいいよー。」

「あんたは!元々!考えない主義でしょ!」

「そだねー。」

・・・。

「で、ルリムラはどこ行ったのよ?」

「誰も見てなかったって、オーロラが言ってたー。」

「あの放浪癖め。袖なし短パンでこの一面銀世界で。あいつ、まじわかんねー。」

「わかってはだめなんだよ?ねえちゃんが言ってた。」

・・・。

「さて。」

「さて。」

「ここの都心まで行けばなんかわかるって、オーロラが言ってるけど、」

「霜焼けとかにならんようにそれなりに見繕ったけど、実際どうなんかね。」

・・・。

「で、あんた。杖の先に何つけてんのよ?」

「うん。靴の隙間にあのー、なんちゃらの灯台の部品が入ってたー。」

「あー、あんときにあった<導きの・・・灯台>だったっけ?」

「つまみ取ったら、妖精っぽい形になったー。」

「あー、そういうことは昔から出来るんよね、あんたは。」

「で、<みちびきましょうぞ>とか、そんな感じのこと言ったから杖につけたー。」

・・・。

「ねえ、あんた達。」

「風が光る前に出発するよ。」

「<あいつら>が出てくる前に<クリスタルズ>まで到達しないと。」

オーロラが出立を合図した。

・・・。

五年過ぎてた月日から抜け出したハローとオーレは、オーロラに続いて歩みだした。

「こっから先、どうなるんかね?」

「行ってみればわかるかも♪わからないかも♪」

「そんなもんかね・・・。そんなもんだな。」
晴暦3007年、オーロラと未知識得へ
晴暦3007年5月22日。

北の極地の大国「クリスタルズ」の大雪原に所々見受けられるクレパス。

極地ではあるが気候は夏に近く向かっている。

それでも、流れの緩い風は冷気であることには変わりなかった。

そんな中に、オーレ、ハロー、ルリムラは時の迷宮「永久組曲」から追い出された。

永久組曲の中で放浪のルリムラに拾われたオーレとハローには、

5年経った月日がたった数時間の出来事であり、

永久組曲の出口は、どこにでもあり、どこにでもなく、

地域に見合った準備すらそもそも出来るものではなかった。

闇の迷宮から抜け出た先が北極の閉鎖大国「クリスタルズ」。

寒さに耐え切れるものでもない中、心の準備なく3007年時に現れた悪魔達と人造攻性ゴーレムに追われることに。

そこに治安派出基地所属の武装した少女「オーロラ」に援護の末、窮地から逃れられた。

そのオーロラはハローですら見間違えるオーレ似であった。

派出基地で暖を取りながら、オーロラ自体も又聞きの又聞きによる今の状況を教えてもらった。

国違いによる暦でありながら、あの頃から5年過ぎていたことに呆然とした。

「悪魔」というものにより、「いつもの生活」への危機状態にあると。

・・・。

オーロラの持つ得物自体も旧式であったため動作不良が頻繁にあったと。

そこはオーレの趣味かつ特技の「ゴーレム・スクラッチ」が輝いた。

基地内にあったジャンク品からオーロラの精霊術式機関銃と装備を出来うる限りに改造した。

その手際の良さにオーロラは唖然としていた。

クリスタルズに無い技術だったからであった。

・・・。

「オーレ、起きて。」

「日差しの出ている間に首都に向かおう。」

「白夜までもう少し先だけ、わずかながら暗い夜がくる。」

「今ならさっきのゴーレムくらいの巡回ぐらいだけど、」

「暗くなったら、<スノーマン>達が出てくる。」

オーロラが言うには、巡回ゴーレムとは別の重ゴーレム<スノーマン>が非常に厄介だと。

オーレ達は貸してもらった寒冷服を厚着して、道先案内人としてオーロラに付いて行く事になった。

・・・。

<クリスタルズ>。

北極にある大国は興味なく聞いていた事はあったけど、

実際、かつての身近の人にどれだけ行ったか皆無であった。

わからなければ、自分の目で見ろ。

わからなければ、自分の耳で聞け。

わからなければ、自分で感じ取れ、と。

誰の言葉だったか、ちと思い出せなかった。
晴暦3007年、鋭気鈍感のミカサ
晴暦3007年5月22日のお昼ごろ。

今、ミカサはバレリィちゃんの海花町支店から西にある「真珠の森」にいるでありますよ。

真珠の森にある商店街を歩いていたはずでありますよ。

しかし、歩いていたところは商店街ではなかったでありますよ。

そう、

いつもどおりのミカサの「方向音痴」が発揮されてしまったでありますよ。

とほほ・・・。

もはや、どこを歩いてるのかすらわからないところまで進んで、

「でっかい蜘蛛」に遭遇したでありますよ。

「でっかい蜘蛛」に追われていたでありますよ。

そんな中、偶然出会った「バインドラッシュ」さんに助けてもらったでありますよ。

粗雑アンド丁寧口調のバインドさんは、空の上から何かを探しにこっちに来ていて、

それでありながら、来る年代を間違えたとかなんたらこ~たら・・・。

で、探しもの・調べものなら、「図書館」でありますよ。

でっかい図書館の「白の塔」。

・・・。

・・・あれ?

ミカサは少し眉間を摘んだでありますよ。

「白の塔・・・、白の塔・・・?ありゃ?私ゃ・・・、白の塔に行ったことありましたっけ?」

「・・・なあ。そんな記憶で大丈夫か?でございますか?」

「あ、安心してくだされ。私ゃの記憶力は曖昧だと、よく言われるでありますよ。」

「それ、だめじゃね?でございますよ。」

そ、そんなときは・・・、

「てってれぇ~♪なぞのぉいきものぉ~♪」

「その微妙な生き物はなんだ?でございますよ。」

「特にわかりませんっ!」

「・・・。」

「きっとこのびみょうないきものが、図書館まで連れて行ってくれるはずでありますよ!」

「どこから出たその自信は?でございますよ?」

・・・。

バインドさんは、すっごく不審がっていました。

・・・。

「こういう野生の勘は、鋭い私ゃなのでありますよ!」

運は悪いが勘は鋭い私ゃ、「太楽の千本刀のミカサ」と、バインドさんは、

草を掻き分け、「白の塔」へと獣道を進んでいったのでありました。
晴暦3007年、疾風怒濤のバインドラッシュ
晴暦3007年5月22日のお昼ごろ。

今、ミカサはバレリィちゃんの海花町支店から西にある「真珠の森」にいるでありますよ。

バレリィちゃんが4日ほど前の深夜に外出してから帰宅しないんでありますよ。

で、まあ、ご飯をしばらくもぐもぐしてて、「ハッ!」として今に至るでありますよ。

海花町から真珠の森まで徒歩でも2時間くらいのところでありますよ。

森の中に入ってから3日ほど経っているでありますよ。

海花町から隣町のサワ野町まで徒歩で3時間くらいということくらい知っていたでありますよ。

そして・・・、そこで!気付いたでありますよ!

「路面電車に乗ればよかった!!」と。

そう、ミカサは「また迷子になった!」でありますよ!

で、ここはどこであります?

四方八方、樹!樹!大きな樹!

真珠の森商店街のにぎやかさもどこへやら・・・。

・・・。

ガサリ・・・、ガサガサガサガサッ!!

!?!?

な、なんでありますの!?

・・・、目の前に、

「ひっ!ひいいいいいいいいいいい!!!」。

「蜘蛛っ!蜘蛛っ!でっかい!蜘蛛ががががが!!!」

「あびゃああああああああああ!!」

・・・。

迷子でありながら、一心不乱に走りまくってるでありますよ!

ガサガサの音がいっぱい後ろから聞こえているでありますよ!!!

・・・。

「しいいいいいいいいいいいっ!やっ!!」

何事!?と後ろを振り返ったその瞬間、顔の横に何か飛んで来たでありますよ!

え!?え!?え!?・・・蜘蛛の脚!?

ずどん!ずどん!と音がするたびに、ばらばらになったでっかい蜘蛛たちが転がっていますでありますよ!

・・・。

「なんだよ、これ!<スケジューリア>が言ってた事が無茶苦茶じゃねーかでございますか!」

「なんで、こんなに<瘴気撃ち>の群生がこんなところにわいてるじゃねーかでございますか!」

「この地表はどうなってるんだ?この<地表>は!?」

「なあ、あなた!?」

ひっ!

「今、いつの時代なんだ!?でございますか?」

せ、せいれきの3007年でありますですよ・・・。

(なにこの?粗雑アンド丁寧口調の人は???)

「ああああああ!<スケジューリア>の奴!来る時代設定間違っているじゃねーか!でございますよ!」

「なあ!ここの<土の民>の方でございますか?」

つ、つちのたみ?

「なあ!<カレイド>って奴、知らないでございますか?」

かれいど・・・。カレイド・・・。あ。元「世界王」の人でありますですか?

「そいつだ!そいつ!」

「なあ、あなた!居場所、わかんねえでございますか?」

テレビでチラッと見たことあるようなないような・・・。

「知ってそうな奴の所に連れて行っていただけませんか?」

役所・・・じゃだめっぽそうだし、<図書館のあの人>だったら?

「そこでよろしいでございますよ。護衛してやるからさ!」

「俺は、バインドラッシュ。樹の民のバインドラッシュ。」

その人は、のちのちに<ワルキューレ>という何かということを、

ミカサは知ることになるのでありました。
晴暦3007年、五色藍晶のプルーネア
<エンジェル・ハイブ>は、また「他世界」を引き釣り込んだ。

まただよ。

いつものことだよ。

忘れた頃に「扉」を開く。

扉を開くたびに「難民達」が迷い込んでくる。

「難民達」は「片道切符」しか渡されていない。帰れない。

まただよ。

寝ている振りして、「妖精達」は油断を待つ。

今度の扉は・・・また「あの扉」だよ。

「世界のまわり」じゃ「悪魔騒ぎ」と来たものか。

「アルビオン達」はいつも混乱、阿鼻叫喚。

他色の「フォーミュラ達」は何しているやら。

おっと、我も同類じゃった。

「あの子」は魔王の眷属と化したが、まだフォーミュラへの導きがある、と。

果てさて、我はまた、<エンジェル・ハイブ>の妖精達に負荷与えに行くとするか。

・・・。

「フォーミュラ」の一人である「藍晶のプルーネア」は、

通称「悪魔」を引き込んだ連中の巣窟に舞って行った。

・・・。

プルーネアの駄々話を傍らにいた頂王<マンデルブロ>は聞き流していた。

「ふぅ・・・、あの子も駄々っ子さんですこと。」
晴暦3007年、果無我欲のロストベリー
「いつまでも!うざいんだよ!龍人どもがあ!!」

世界のどこに在るのか、無いのか、それすら把握できない「世界の中心」。

「あの時」からずっと際限なく龍人どもは手を休めることは無かった。

手を休めるどころか、次々と戦術が変わって襲い掛かってくる。

それは「最も有効な手に切り替えて、さらに有効な手に変えていく」かのようであった。

世界の中心に在った純白の巨木に絡まっていた「箱舟」の船体は気付いたときにはすでに無かった。

「そろそろ、無制限の手段も事切れてくれないかああ?」

足元に少しずつ組み込んでいた術式で、自らも巻き込む破壊と歪みで何もかも失う術を実行した。

・・・。

「・・・、ここは?・・・、どこだ?」

見知らぬ街中の裏路地に我が身の確認をした。

懐の時計を見たが、気付かぬうちに針が止まっていた。

表の通りに出、街並みを見、掲示板の日付を見て、

「おいおい、あれから4年半経っていたのか?」

「龍人どもめ、休み無く4年半とやってたのかよ・・・。」

ため息が出た。

掲示物を改めて見た。

「ああん?悪魔討伐有志募集?なんだこれ?」

「悪魔討伐一体につき、報酬五万キングス?はあ?」

「なにやってんだ?今?」

「・・・、あ。」

「なんだあれ?」

うにょうにょ動く黒い影が電柱の根元にいた。

「これが、悪魔か?」

待ち行く人々には見えていないようだった。

「おい。」

ひょいと、<それ>を掴んだ。

指先がビリッ!と、した。

・・・。

「おまえ、面白いな♪」

「その<プロトコル>、アタシにくれよ♪」

その悪魔は、相手にしてはいけないものに対し怯え震えていた。

・・・。

その者は、晴暦3002年時に首都オウカナで暴れた魔女「ロストベリー」であった。
晴暦3007年、断迷毒蛇のジェファ
晴暦3007年5月23日朝。

朝日が昇り始めた極東のスーリア国。

5年以前から王政より民主化運動されつつあったスーリアだったが、

内政のごたごたが長続き、完全民主化に至らずにあった。

・・・。

スーリアの東の港町サン海花の居酒屋「はるきや」にて、

アリューシャとジェファが昨日から飲み続けていた。

・・・。

ガシャーン!!

「てめえ!悪魔だかなんだか知らねえが、店先で暴れんな、うぉらああ!」

居酒屋前の通りで豆腐屋のおっちゃんの怒号が響いた。

・・・。

「ほら~、悪魔暴れてんのよ~、なんとかしなさいよ~。」

「おい、ジェファ・・・、白目向いて寝てやがる・・・。」

・・・。

アリューシャが「水蛇」を悪魔にぶっかけた!

ぶっかけた、というには、その威力はぶっかけるとは違うものであった。

はじき飛ばされた悪魔は通りの交差点の店に突っ込み、水しぶきで汚い虹が出ていた。

・・・。

アリューシャが満面の笑顔で居酒屋に戻っていったが、

ジェファの姿がそこにはなかった。

・・・。
アリューシャによって吹き飛ばされていた悪魔が起き上がっており、

言葉に表せない不思議なうめき声を発していた。

ジェファが酔いで足取り頼りなく、悪魔に近寄っていた。

自分の頭を「こんこん」と突いたとたんに、まるでシラフに戻ったかのように見えた。

いや、完全に酔いから醒めていた。

・・・。

その者は、春原の海花のジェファ。

スーリア国の戦歌姫の「ラ」の音称、ジェファ・スー・ラとも呼ばれていた。

・・・。

「おーまーえーらーがあああ!」

「あくま!って奴らかああああ!!」

ジェファは、魂を支配する魔剣「ソウル・ジャック」を手にしていた。